STAX SRM-1

 STAX SRM-1を入手。MK2とかProとかPPとか付かない「素のSRM-1」で1979年に発表されている。真空管で言えばロフチン・ホワイトの初段を差動にしてプッシュプルにして最後にカソードフォロワを付けたような回路を半導体に置き換えたようなものだが、シンプルな構成で前から気になっていた機種だ。当然、直結のために電圧が積み上がっていくので最後はキャパシタで切って出力となる。電源トランスにカットレスコアを奢り、初段の電源には定電圧回路が入っている。

3年後に発表されたMK2になると筐体はほとんど同一だが、フォールデッド・カスコードでレベルシフトを行い、出力部のキャパシタを省いてDCアンプになった。回路は複雑になってマニア受けしそうな構成である。一方、トランスは製造し易そうな普通のコアのものになっている。

個人的には以前からシンプルな素のSRM-1が気になっていた。

切られていた電源コードを繋いで、後部から前面のスイッチ迄の配線を念のため2芯シールドに替えておく。シールド線と言っても1芯あたりAWG22で300 V RMS 2.9 A迄流せるものである。まずは高圧電源の電解キャパシタだけ念のため換装。元々付いていたのは47 µF 350Vだったが、商用電源の変動を考えて450 V耐圧にアップグレード。突入電流とか考えても大丈夫だろうと容量も100 µFに上げた。ただカットレスコアのトランスなのでもし突入電流が問題になるようなら抵抗かパワーサーミスターを入れるしかないが多分これ位は大丈夫の筈。チューブラータイプの電解キャパシタの選択肢が少なくなっている。F&Tという会社の製品を初めて使う。ドイツの会社らしいが、実際の製造国はどこだろう?

各部の電圧は多分正常。きれいに揃っているのは直流帰還のおかげかな?とりあえずの音出しも問題なし。用意していたTrは不要に。高圧電源を分圧してプロバイアスを用意するかな?などと考えていたら、あっ、LEDが点いてない!

外して調べてみるとLED単体は生きている。あれっ、初段の電源のヒューズが飛んでた。いじくっているときに過電流か?

0.1 Aのヒューズは近くのホムセンにはない。遠くまで行かねばならない。

ヒューズを新しくしたら問題なく動作している。LEDもちゃんと点いた。

初段の定電圧電源の電解キャパシタも換装。近所のホムセンで買った105℃の汎用品だが45年の間に進んだ小型化を実感。私の耳では高価なオーディオ用キャパシタと聞き分けられない。Trもそうだが鉄足だからダメってわけでもない。

電源トランスの裏側にユニバ基盤を入れて終段の電源を分圧(220 kΩと2 MΩ)して約580 Vのバイアスを得たので向かって右側の出力コンセントをプロバイアス仕様とする。といっても5ピンのコンセント(SRC-5)を持っているわけではないで、6ピンのコンセントをそのまま使い、誤用を防ぐため真ん中の穴に詰め物をしておく。


発売当時のカタログに載せられていた値の記入されていない回路概略図を元に基板を睨んで値を読み取ってみた。放熱板に隠れて見えなかったところもある。初段の2SK68Aの差動に続いて2SD594、最後は2SC1828のエミッタフォロアで当時すなわち45年前の選択としては納得できる組み合わせだ。2SD594と2SC1828はもう滅多に見ない。2SC1828はhfeを揃えたものを入手していたが使わずに済んだ。補修用に取っておこう。

抵抗もキャパシタもところどころ2個、3個の直列接続が見られ、高い音声シグナルと抵抗の最大定格(電力・電圧)を念頭に置いた設計がきちんとされている。この辺の配慮は私達アマチュアも参考になる。位相補正のキャパシタは今では希少なスチロールタイプ。抵抗は当時低歪率で注目されていた金属皮膜抵抗と、ツボは抑えられている。

MK2以降は定電流負荷とかフォールデッド・カスコードによるレベルシフトとかが利用され、新しい物に貪欲だった当時のオーディオファイルの注目を集めたが、てらいもなく抵抗負荷で最後にキャパシタで直流を切った素のSRM-1はオーディオアンプに必要十分なものは何かを知悉して設計されていると感じる。ひょっとして中川伸氏が設計に関わっていたのだろうか?

各部の電圧はぴったり揃っていて安定性も優れている。半固定抵抗を弄る必要はなかった。電源の電解キャパシタ以外いじる必要はなさそうだ。

敢えて弄るとしたら、2SD594の電源にリプルフィルタで入れてみること?位しか思いつかない。初段にはローノイズの定電圧回路が入っているし、最終のエミッタフォロアにリプルフィルタは不要かも知れないが、2SD594は普通の抵抗負荷なので。なお、共通エミッタには抵抗が入っている。実用的には雑音は全く聴こえないし、コレクタ電圧が若干下がるのでリプルフィルタなど意味ないかもしれない。

SR-α PRO Excellent(ジャンク 再生改造品)を繋いでみる。音は最初少し元気が無いような印象だったが、1日経つとごく普通の音に感じる。45年前の「これがHiFiだ!」的な尖った音が出るかと思ったが、むしろ大人しい。けれんの無い回路からけれんの無い音が出た、ということか?

上も下もどこまでも伸びているというので無く可聴域を確保した上で自然に減衰しているようだ。歯擦音も自然。新しいアンプを真空管とMOSFETを使って設計していたのだが、フォールデッド・カスコードも無くカレントミラーも無いSRM-1で十分な気がしてきた。

MK2以降の製品に比べるとインターネット・オークションで見かける頻度は低い。ノーマルバイアスのみであること、発売当時レコードを主に聴く方はプリアンプの付いたSRA-12S、スピーカシステムをお持ちの方はトランス式のSRD-7のようなアダプタの方が魅力的だったのは間違いない。

音楽CDが日本で発売され爆発的に広がるのは1980年代になってからだし、STAXがプロバイアス機を発売したのも同じく1980年代初頭であった。

その点、素のSRM-1は少し早すぎた製品で、作りもまっとうすぎたのかも知れない。もちろん、今から買うなら最新の製品が優れていると思うし、古い機器はメンテナンスにも工夫が必要で、あくまで趣味のものであることも自覚している。このSRM-1は私にとっては十分すぎるものとなっている。大体、メンテナンスしようにも2SK68Aも2SD594も2SC1828ももう簡単には入手できないし、まして特性を合わせたものの入手は難しい。代替品を入手しても放熱板の構造から考える必要がある。他人にはお勧めしない。



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