STAX SRM-1 MK2 P.P.

  STAX SRM-1 MK2 P.P.を手に入れた。発売が1989年であるから30年位前のものと推定される。MK2という呼称から想起されるようにSRM-1というのがあった。両者の筐体の見かけはそっくりであるが、中身(回路)は別物である。インターネット上にシミュレーション結果を発表されておられる方がおられるのでその回路を見ると;

 1979年発売のSRM-1は、初段がN ch JFETの差動で高圧小電力Trの抵抗負荷に高電圧(650 V)を供給して増幅し、それより少し大きめのTrのエミッタフォロワで出力し、コンデンサで直流をカットしている。初段の電源は±24 Vで高性能の安定化電源らしい。つまり回路自身は差動2段+フォロワで、真空管回路をTrに置き換えたようなシンプルなACアンプ構成である。

 一方、1981年発売のSRM-1 MK2はDCアンプ構成にして、半導体アンプとして性能を追求するために凝った回路となっている。+350 Vと-370 Vの電源を用い、初段はP ch JFET+PNP Trの2段重ねカスコードの差動で定電流負荷で直流電位をマイナス側に振り、終段はNPNのTrのカスコードの抵抗負荷で出力端子電圧をほぼ0 Vにして、完全なDCアンプになっている。出力段にはエミッタ―フォロワは使われていない。おそらく裸利得も大きく、NFBも特性に貢献しているのだろう。

 どちらがいいかは好き好きだろうが、SRM-1の方はカットレスコア・トランスをおごり、初段の電源を低インピーダンス安定化電源とし、衒いもなくACアンプとしているあたり、音楽鑑賞用のアンプに必要にして十分なものを知悉して設計されているという印象を受ける。高い周波数になるほどインピーダンスが低下して出力電流を要求する容量性負荷に対してエミッタフォロワという選択も悪くない。

 STAXのヘッドホン(イヤースピーカー)は、SRM-1の発売当時はまだノーマルバイアス(230 V)の時代だったため、6ピンの出力ソケットが2個設けられていた。

 1981年発売のSRM-1 MK2も当初は6ピンの出力ソケットが2個設けられていたらしい。1982年には6ピンと5ピンの出力ソケットがそれぞれ1個ずつ備えたProfessionalというが発売されたらしい。これは1982年に発売(当初は限定発売)されたSR-Λ Professionalへの対応だろう。さらに1989年発売のP.P.では5ピンの出力ソケットが2個となった。入手したのはP.P.である。ノーマルバイアスのヘッドホンがさせないというのは個人的にはちょっと使いずらい。SRM-1 MK2 P.P. は内部の配線材にも高級品が使われているそうだ。どうせ私にとっては猫に小判だが。

 なお、無印のSRM-1 MK2には後面に電源電圧の切り替え用ソケットがあり、100 V、117 V、220 V、240 Vをプレートプラグの差し替えで切り替えることができたが、途中から日本向けは100 Vにフィックスされ切り替え用ソケットはふさがれてしまった。SRM-1 MK2のシリアルNo.には番号の先頭にA、BあるいはCが付されたものがある。手に入れた個体はCで始まる。

 さらに1994年にはSRM-3というのが発売されている。改良版らしいが後面はACコード直出しと簡素化されている。

 入手したSRM-1 MK2 P.P.は納屋にでも放置されていたのであろうか、全体に汚れており、アルミの腐食が始まっているのか薄めた洗剤を含ませた布で拭いたぐらいではちっともきれいにならない。


 筐体を開けたところ、プリント基板全面に灰色の埃が数ミリ積もっていた。まるで集塵機!これほど積もった埃を見たのはQUADのESL57スピーカを分解したとき以来である。掃除機の先に細いノズルをつけて吸えるだけ吸う。変に焼けた部品などはない。驚いたのは後面の入力端子(RCA端子)から前面の可変抵抗器までの配線も、可変抵抗器からプリント基板までの配線も、ともにシールド線が使われていないこと。その配線は電源トランスの横を通る長いものなのにである。余程実装に自信があるのだろう。いっそシールド線に替えるか、銅箔でも巻いてアースしたいものだ。

 内部に焼け焦げたところが無いのを再度確認し、通電する。驚いたことに出力端子には大きな直流電位や端子間のアンバランスは見られない。直流迄NFBが掛かっている所為かも知れない。まあ、電解キャパシタは新しいものに替えた方が良いだろうなあ。



コメント

  1. 良いもの入手されましたね。私も数年まえ偶然オクでSRM-007tAを手に入れました。ところが6CG74本の発熱がひどく夏場はケースが目玉焼きができるほど熱くなります。まともな設計とは思えずしばらく放ってありました。最近気を取り直して放射温度計で測ると球外壁は130度、負荷抵抗表面も120度を超えます。苦肉の策で内部に小さなファンを仕込み上蓋を少し持ち上げて排熱させるようにしました。振動防止のため12Vファンを≒6Vで駆動した結果、球、負荷抵抗いずれも85度程度に収まりようやく使う気になりました。それだけで終わらず音が何かしっくりこなかったのはバイアス電圧が530Vしかありませんでした。インピーダンスが高いので測定が大変でしたが、580V強に調整してようやくまともな音になりました。バイアスが浅いとSTAXとは言え寝ぼけた音になります。

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