STAX SRM-1 MK2 P.P. その2
SRM-1 MK2 P.P.に手を出した理由はヘッドホンがオマケでついていたからである。不鮮明な写真だが、イヤーパッドの形状からSR-α Pro Excellentに見えた。汚れていて写真ではロゴも読めなかったし、端子が金メッキかどうかも分からななかった。入手してみたら、本物のSR-α Pro Excellentのようだ。そのオマケのヘッドホンをSRM-1 MK2 P.P.に繋いでみたが、音が出ない。ボリュームを最大にすると右だけはかすかに蚊の羽音のように聴こえる。コードは断線していないことを確認したが、やっぱりオマケはオマケでしかなかった。
SRM-1 MK2 P.P.に他のヘッドホンを繋ぐとちゃんと鳴る。つまりこのアラサーのアンプはご存命である。自作の静電型(コンデンサ型)ヘッドホン専用アンプMK-18と同様にSTAXのヘッドホンをしっかり鳴らしてくれる。つまり、結論としてはオマケのSR-α Pro Excellentは修理すればいい。
そこで、まずSR-α Pro Excellentを分解してみる。これもSRM-1 MK2同様に納屋か何かに放置されていたのであろう。汚れている。とても汚れている。ケーブルのゴールドの線も消えかかっている。薄めた洗剤を含ませた布で拭いたが布が抹茶色になったので、おそらく以前は喫煙環境に置かれていたのだろう。発音ユニットの裏側に入っていた筈のウレタンスポンジは僅かな痕跡を残して砕け散り消えている。一度手が入っているのかも知れない。開けてはみたものの直せなかったのではないか?故障の原因は振動膜のコーティングの劣化かバイアス端子の接触不良ではないだろうか?
発音体を鳥かご構造(虫かご?ケージコンストラクション)から取り外すと発音ユニットを保護している薄い膜が破れてしまった。慌てない、慌てない、これもお約束のようなもの。保護膜の外側はざらざらするぐらい汚れていた。発音ユニットの周囲の4個のイモネジを緩めて発音ユニットを分解する。振動膜が固定電極に固着しているようなこともなく、振動膜Assyをあっけなく取り出すことができた。電極に繋がる端子の半田は酸化しかけている。電極への細い配線が切れてしまったので半田付けで補修する。
以前分解したSR-Γキメラでは振動膜Assyの両側に0.05 mm厚程度のドーナツ状のステンレスの薄板が入っていた(左右チャンネルで計4枚)が、今回のは片方のユニットに1枚入っていただけだった。このことからも誰かが手を入れたのではないかと想像しているが確証はない。振動膜Assyの厚さは約1.3 mm。SR-Γキメラでは「薄いドーナツ状のステンレスっぽいリングが入るので固定極間距離は1.4 mm位」と推定していたが、発音体ユニットの振動膜Assyがはまる部分は固定電極面より僅かに低くなっているので、固定極間距離は1.4 mmよりは狭く、約1 mm強と考える方が良いかも知れない。
ドーナツ状のステンレス板については0.05 mmのシムシートが使えそうだ。かといって自分でカットしても絶対に変形して上手くいかないのは目に見えているので、シム・スペーサ―の製作会社にセミオーダーで頼んでみよう。1個からでもWebオーダーできるのはありがたい。
振動膜Assyを2-プロパノールで洗浄する。固定電極には変色した部分もあったが、振動膜に穴が開いたりはしていない。Licron Crystal スプレー液を2-プロパノールで2倍に薄め、振動膜に塗布し乾燥させる。元通りに組み立てて、1.5 μm厚のフィルムを手でよく揉んで枠に瞬間接着剤で接着し破れてしまった保護フィルムの代わりにする。本物はもっと薄いようなので、0.5 μm厚のフィルムを探してみようか。超軽量屋内模型飛行機用にDuPontのOS Film(0.5 μm厚)というのがあるそうだが、国内の代理店が見つからない。
発音体を鳥かごに装着。ウレタンスポンジはとりあえず無しで。能率は高く、聴き比べるとSR-Γキメラより音量がかなり大きい。いつものことだが振動膜に添付した Licron Crystal が完全に乾けば、能率が少し下がって、SR-Γキメラと大体同じくらいになると思う。鳥かごは同じなのだが、SR-Γキメラと違って純正と思われる馬蹄形のイヤーパッドは装着感がなかなかよい。耳介全体を覆ってくれるので、結果的に振動膜から耳までの距離が短いのが良いのかも知れない。長時間装着したときに耳が痛くなるにも関わらずSR-Xシリーズの人気が高いのはせんべい布団とかカーペットとか呼ばれるあの薄いイヤーパッドのおかげで振動膜から耳までの距離が短い、あるいは耳とヘッドホンの間に出来るキャビティ(空洞)が小さいのが良いのではないかと思っている。
海外では一時期SR-Γ Proの発音ユニット(SR-α ProやSR-α Pro Excellentも基本的に同等)をSR-X MK3の筐体に入れたSR-X MK3 Proモドキを作る方も居たと聞く。SR-Xシリーズの音質を好ましく思う人が結構居たのにSR-X MK3 Proの販売数が極端に少なかったことがその背景にあると思われる。
確かにSR-ΓキメラやSR-α Pro ExcellentとSR-X MK3改を聞き比べていると私もSR-X MK3の方が若干好ましく感じる。何となくだが、品よく聴こえる。しかし、所有のSR-X MK3改はノーマルバイアス機で能率が低い。SR-X MK3 Proモドキへの誘惑は理解できる。潜水艦のソナー手が使っているような無骨な筐体+薄型イヤーパッドのSR-XにはSR-α(SR-Γ)系の鳥かご構造の筐体に勝る何か秘密があるのかも知れない。
ところで、STAXがアークと呼ぶ部分に付いているヘッドバンドも汚れ、くたびれている。取り替えたいが外し方が分からない。海外のフォーラムを見ても悩んでいる人は居るが、解決法が見当たらない。
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