静電型(コンデンサ型)ヘッドホン専用アンプ 24

 ヒーター電源はLM338を使った秋月のシリーズレギュレータ・キット(出力電圧可変型)を説明書通りに2台組んで、それでさっさと済ますつもりだった。が、少し改変した。まず、出力電圧の可変は不要だから12.6 Vに固定した。LM317やLM338やLM350では出力電圧はほぼ2本の抵抗の比で決まる。厳密には調整(ADJ)ピンを流れる電流による電圧が加わるが誤差の範囲だ。経験上220 Ωと2 kΩでほぼ12.6 Vが得られる。さらに真空管のヒーターって冷えてると抵抗値が低く、スイッチオンと同時にラッシュカレントが流れるので、TI社のデータシートを参考に(ほぼコピー)してLM338にPNPトランジスタ(2SA1015)を足してソフトスタート(slow turn-on)に。これで数秒でじわりと12.6 Vになる。キットの基板は2か所ほど銅箔を切って、後は既存の配線や穴を利用した。

 さらにその出力電圧を利用して、シュミット・トリガを使ったディレータイマーを動かし半導体リレー(フォトトライアック+電力用トライアック)を介してプラス・マイナス電源(+315 Vと-415 V)用の電源トランスへのACをオンするようにした。1から設計・検討せずにWEB上に公開されているのをパクったためシュミット・トリガの設定はイマイチ分かってない。。。ブレッドボードでちゃんと試行錯誤すればよいものをズボラしてユニバーサル基板に組んでからの試行錯誤でドーナツ状の銅箔はあちらこちら剥がれ余計時間が掛かった。ジャンク箱の中にタイマーICの555が1個も見つからず、こんなことに。半導体リレーも秋月のキットである。接点のある電磁式のリレーよりも経年変化に強そうなので試しに採用してみた。

 フォトトライアックの性質を考えるとトランジスタで組んだシュミット・トリガは必要なかったかも知れない。キャパシタの充電を利用してトランジスタの電流がだんだん上がるような単純な回路にフォトトライアックを繋げば、一定の電圧迄上がった時点でフォトトライアックがオンになって、それでチャタリングもなく電力用トライアックがオンになる、それで十分だったかも。

 LM338はキットのヒートシンクに付けてある。電圧差3 Vで1.2 Aなので3.6 Wの消費。これでも熱的に駄目ならパワートランジスタで電流ブーストしよう。ヒーター電源の出力端に逆電圧防止のダイオードを念のため入れておく。

 ところがである。計画通りヒーターが十分に暖まってからプラス・マイナスの電源がスタートするのだが、にもかかわらず出力端子にしばらくの間225 V程(アースに対して)が現れる。これでは上側の球のプレートやヒーター・カソードの定格オーバーで絶縁に問題が生じるかもしれない。何故だろう?カソードフォロワ段の固定バイアスを電源変動に対応した回路に変更したときに高電圧ツェナーダイオードからの雑音を恐れて大きめの電解キャパシタでマイナス電源側に繋いだ。電源が入ってからそのキャパシタの充電に時間がかかり、その間下側の球に電流が流れにくく、結果的に出力端子に高い電圧が生じたのだ。ツェナーダイオード+20 kΩに200 µFが並列入ったものに対して320 kΩを通じて415 V掛けているのだから、充電に時間がかかるのは当然だ。

 とりあえず4本の電解キャパシタ100 µFを取っ払う。雑音の問題を除けばキャパシタはあってもなくてもバイアス回路としてはほとんど同じである。高電圧ツェナーダイオードの雑音が問題になれば、別の解決策を講じよう。抵抗値を下げて(300 kΩ→100 kΩとか)ブリーダー電流を増やす(1 mA→3 mA)、雑音の少ない5 Vクラスのツェナーダイオードを沢山シリーズにする、電解キャパシタの容量を下げる(例えば100 µF→10 µF)、などが考えられる。これらは現象の時間を短くするがゼロには出来ない。

 バイアス回路は、電解キャパシタを外した状態で抵抗値を1/3位に下げてツェナーダイオードに流す電流を3倍程度にすればより安定で低雑音かも知れないが、電力消費が多くなるので抵抗の耐圧(W数)を大きく取る必要がある。現状で問題無ければそれで良いと思う。

 電解キャパシタをマイナス電源側ではなく、アース側に落とすというのも可能だが、アース側に落とすと短い間だがツェナーダイオードに高い電圧がかかり危険だ。マイナス電源とアースの両方に適当な比率でキャパシタを入れるという手もあるが、実機で試してみないと効果は予測しがたい。以前書いたように固定バイアスを止めて自己バイアス化するのもひとつの方法である。電解キャパシタがなくなって多少雑音があっても終段で20倍弱に増幅されるだけだし、コモンモードなら相殺されて出力には出にくいので、楽観的に行こう。

 バイアス回路の電解キャパシタを取り払ったことで、ディレータイマーがオンになってプラス・マイナス電源が起動した直後でも出力端子に極端な高電位が現れることはなくなった。が、今度は音が極端に小さい。それもStax流にいえばプロバイアス(約580 V)の端子だけ不調で、ノーマルバイアス(約230 V)の端子は正常である。これは電源部と増幅部を繋ぐコードのプラグ部分での切断が原因で、さっさと修理完了。

 一聴した範囲では雑音は聞こえない。なぜかは分からないが、電解キャパシタを外す前よりも生々しいし、定位も、初段とカソードフォロワとの間に2芯シールド線を導入する前のに戻った感がある。となると、理由は分からないがここの電解キャパシタは無い方がよかったのかな?

 初段の12AU6の差動回路において共通カソードの定電流回路は正常に機能しているが、定電流回路故にプレート抵抗による電圧降下は一定(定電流×抵抗=定電圧)でプレート電位は電源電圧の変動をもろに受ける。共通カソードを抵抗1本で済ますという手もあると思うが、どうだろうか。少なく共電源電圧の変動に対してはダルになるだろう。抵抗1本で済ました場合には、電源が入った直後のヒーター・カソード耐圧が問題になるのだが、本機ではヒーターが十分暖まってからプラス・マイナス電源が入るので問題はなさそうだ。

 初段のプレート電圧のふらつきは、今回の回路では次段との間が直結では無いのでそれ程シビアに考える必要はない。また、位相反転回路としてのACバランス、コモンモード雑音の排除と云う点では現状の方が良いのだろう。 

 今回、アンプ全体のACバランスはアンプまかせだ。初段の五極管の差動は自動的に高いバランスが得られている筈。スクリーングリッドも結合しているので。ただ、2管が完全にそろっている筈はないので、数パーセントの不平衡はあるかも知れない。終段の平衡SRPPは共通カソードに比較的大きな抵抗(5 kΩ)を入れているので、定電流回路を入れている訳ではないが、初段のアンバランスを是正している筈。SRPPの下側の球のµが正確には揃っていないだろうからここにもアンバランスの要素はある。アンプ全体で一度計測しなければ。

 もし無視できないアンバラがあった場合どうするか?一番簡単なのは、平衡NFBのどちらかの抵抗を可変できるよう(例えば200 kΩ+多回転ポテンショメータ50 kΩとか)にしておいて入力のキャノン端子の2ピンと3ピンに同じ信号を入力し(2ピンと3ピンを接続しておけばいい)、出力端子に現れる交流電圧が最小になるように調整すれば良い。耳で聴いても調整可能だろう。同様の調整法は森川(1984年 無線と實験 8月号)が記述している。

 気を付けないといけないのは、本機の入力が平衡型になっていることで、平衡型アンプとしてACバランスを正確に取っても、それが片側をアースして不平衡入力として使った場合の最適解とは限らないということだ。

 電源の電圧変動は、電位配分が大きく変わるような実害の部分と、聴感的には全く問題がないのだが、電圧計を当てたり、雑音を測定したりしていると、フラフラと数値が動いてイライラする場合とがある。実害は問題にならない程度まで取り除かないといけない。イライラの方はどっしり構えて無視するといいのだが、原理主義的には電源回路すべてを安定化するという解決策がある。これまた、安定化電源というか定電圧回路はこれまた変動をどこまで抑えるか、とかインピーダンスの周波数特性をどう考えるかとか、さらには高周波で発振したりしないか、とか余計なことに頭を悩ませることになる。何事もほどほどで最上の結果を出す知恵が必要らしい。電源を安定化しても真空管は経年変化が大きいし、フリッカ・ノイズは付き物だし。

 次は半導体で作ろうかな?静電型(コンデンサ型)ヘッドホン専用アンプを作るにあたって、真空管も半導体も関係ない気がしてきた。このMK18も、MK11(50CA10  PP)のプレートからコンデンサーを介して出力したのも、デジタルアンプTPA3255のPBTLからStaxアダプタ(トランス)を経て聞いても、それぞれに特徴があって楽しめる。MK18は静謐な感じ、MK11はゆったりとした余裕、TPA3255 PBTL+アダプタはやや控えめで大人しい。半導体差動+真空管SRPP平衡型とかも面白いかも。




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