静電型(コンデンサ型)ヘッドホン専用アンプ 12

 静電型(コンデンサ型)ヘッドホン専用アンプMK15は今のところ満足できるものである。週末にはきちんと測定してみたいと思っている。

 当初は全体のゲイン等を考慮して初段に12AY7を使ってみた。12AX7に比べµばかりでなく内部抵抗も低く、終段の入力容量との関係で生じるミラー効果による高音域減衰も軽微だろうという読みもあった。しかし、12AY7でもゲインが余るようなので6 dB程度の平衡型の負帰還を掛けることになった。それなら、初段にもっと一般的でジャンク箱の中にも複数眠っている12AX7を採用して、負帰還をもう少し増やしてゲインを調整すれば高音域の減衰も少ないかも知れない。もちろん、差し替えただけではなく動作点の調整を行う必要がある。これも週末の宿題としよう。(2022.01.06)

 金曜日の晩、12AY7を外し、ジャンク箱に眠っていたECC83 (12AX7同等)を刺す。プリントはTelefunkenとなっているが、本物かどうかは知らない。どこで手に入れたかも忘れた。かなりくたびれている筈だ。TelefunkenのECC83は電気的性能は立派だがプロのレコーディング・エンジニアの評価が必ずしも高くないとぺるけ氏が書いておられる。暫く使って気に入らなかったらジャンク箱の中にはSiemensもMullardも東芝もナショナルも眠っている筈だ。いずれもプリントを信じればの話だが。もう死語になったであろうが、カンマツという言葉があった。神田、乃ち秋葉原ではどこで作られたか分からない真空管のプリントを消して「マツダ」(東芝のブランド)と印字して高くで売っている、という意味だ。神田生まれのマツダで、カンマツ。個人的にはTelefunkenのECC83に悪い印象は持っていない。幸せなことにプロのレコーディング・エンジニアのような鋭い耳を持っていないので。

 真空管の場合ブランドの差よりも個体差が大きいように思う。経年劣化に従って特性も変わる。双三極管の場合にふたつのユニットの差違も結構ある。日本で生産されていた時代なら何十本も大人買いして選ぶことも出来ただろうが、今となっては夢。多少の差違を許容し調整できるような回路設計が求められる。

 ECC83のプレート電圧が約125 Vになるように初段の電流調節のポテンショメーターを回す。6463の両プレート間に電圧系を入れて電位差が1 V未満になるようにDCバランス調整する。それでおしまい。プレート損失が大きめだったので6463の共通カソード抵抗の値を一寸大きくした。2個のポテンショメータで調整できるのは簡単で良い。6463のプレート・カソード間は310 V程度で、各ユニットのプレート電流は11~11.5 mA。これでもプレート損失には余り余裕が無いが、それでも両ユニット併せて7.7 Wという規格に対して10%の余裕はある。平衡型の負帰還量は約10 dB。負帰還のおかげであろう、両チャンネルのゲイン差はほぼゼロ。バラック組の空中配線であるが残留雑音も10 mVなので実用上問題無い。ACバランスの調整は特に設けていない。終段のカソードに数kΩの抵抗が入っていて、多少のアンバランスは自動的に補正されることを期待している。(2022.01.07)

 初段は今でも入手の容易な12AX7の類に換えて設定を見直したが、終段はどうだろうか?今回用いた6463は個人的には手持ちもあるし、まだ通販でそれなりに安価で手に入るようだがそれほどポピュラーではない。代わりになる真空管はあるだろうか?リーク・ミュラード型のドライバー段でしばしば使ったお馴染みの12BH7Aも良いかも知れない。ピンアサインが違うからそのまま差し換えられない点は注意が必要だ。ただ、直線性がイマイチなのとばらつきが大きいが、結構タフな球という印象がある。

 7044も悪くない。5687やECC182(7119)も同類だろう。これらは6463とも12BH7Aともピンアサインが異なるので気を付けないと。7044は6463に比べヒーター電力が大きい。つまり大喰らいだ。6463の最大プレート電圧が330 Vとされるのに対し(会社によって異なり、Siemensの規格表には300 Vとある)7044は300 Vとされているが、まあ誤差の範囲だろうし、電圧(V)より損失(W)を気にした方が良い。7044は最大プレート損失が僅かに大きい。JJ社のECC99は発表されている規格上は6463に比べ最大プレート電圧が400 Vと大きく、良さげであるが使ったことは無い。MT管なので発熱とか耐久性とか大丈夫かな?ロシアの6Н6П(6N6P)もECC99と同等と言われるが、6Н6ПはしばしばECC182(7119)同等と言われており、どうも良く判らない。似たものに6H30Π(6N30P)というのもあるがこれも使ったことは無い。6Н6Пはソヴィエト時代のNOSが今でも安価に入手できるらしいので、6463と比較するのも良いかも知れない。ただ、高いプレート電圧で使えるかどうかは良く判らない。5687やECC182(7119)の仲間としてはBendixの6900があるが、これは頑丈な造りで別格。とても高価で実物は見たこともない。

 双三極でもGT管で良ければ6BL7とか6BX7なら耐圧に余裕もあり、良いかも知れない。双三極管に拘らなければもっと選択肢はある。森川忠勇 氏の6BX7 SRPPアンプは有名である。優れたものと思うが、SRPPとかカソード・フォロワとかカソードから大きな信号電圧を取り出すのは一寸抵抗がある。個人的には出力段をドライブするためにカソード・フォロワも良く使うが、ヒーター・カソード耐圧がいつも気になってしまう。今回の目標は大げさでないシンプルなアンプである。

 もちろん終段に12AU7や6FQ7を起用するのも良いが、高い周波数域でも静電型ヘッドホンをドライブするためにはもう少し低rpで負荷抵抗を低く設定できる方が良いように思う。それが今回6463を起用した理由のひとつだ。

 今回は不平衡入力から平衡増幅回路に入力するために入力トランスを使ったので回路がシンプルになった。トランス嫌いの人向けには初段のカソードに定電流ダイオードか定電流回路を入れて、初段のヒーターの-12 Vに繋いで差動回路にすれば、多分トランスを省略できるだろう。

 今のところYouTubeから適当に選んで音楽を聴いているが、なかなか良い。湊屋技研合同会社さんの静電型ヘッドホン組立キットが早く届かないか楽しみにしている。(2022.01.08)

 しかし、平衡出力のアンプの測定は面倒臭いなあ。オペアンプで高インピーダンス入力のアッテネータ付計測アンプ(平衡→不平衡)でも作らないと駄目だな。今度はその計測アンプの特性、特に高音域特性をどうやって詰めていくが問題・・・もっと簡便な方法はないものか?高い周波数での安定性は、平衡増幅回路の上側と下側(便宜上こう呼ぶ)の出力をオシロのch. Aとch. Bに入れ、A-Bで観測すれば良いだろう。

 しかし歪率の測定となると、機材の無い素人は、まず高インピーダンスのアッテネータを経て、オペアンプで平衡→不平衡のインスツルメンテーション・アンプ(計装アンプ)を作って、PCのスペクロラムアナライザで試みるしかないかな?その場合にはアッテネータの周波数特性や計装アンプの特に高い周波数での特性を整えないといけないだろう。今回のMK-15は入力トランスで少なくとも1次と2次は直流的には切れているので、出力端子から高インピーダンスのアッテネータを介するだけで可聴域に限れば何とかなるかも知れないが。

 まず、出力にジャンクのSR-5を繋いで周波数特性を計る。10 kHzですでに-0.9 dB。20 kHzで-1.6 dB、-3dBは30 kHz。もうちょっと頑張ってほしいところ。10 kHzの矩形波は特段問題無し。


 ECC83の動作点を見直して負荷抵抗を下げるか、6463の入力容量の打ち消しをするか、負帰還を増やすか、かな?負帰還を増やすのが一番簡単そうだ。ゲインは十分あるし。

 まず、細い平行コードをねじって4 pFのキャパシタを作って、クロス中和を試みた。オシロでの簡易計測だが20 kHzで-0.46 dB、-3dBは56 kHz(左チャンネル)。左右のチャンネルで一寸違っていて、右チャンネルは20 kHzで-0.5 dBで-3dBは52 kHzなのでもう少しキャパシタを大きくしても良いかも。クロス中和は有効だ。もっともこれはある種の正帰還なので、やりすぎは不安定要素となる。(2022.01.09)


 さらに平衡型の負帰還の抵抗を換えてて負帰還量を約-12 dBに調整したところ高音域の-3dBは60 kHz以上になった。しかし、10 kHzの矩形波を見ると立ち上がりが良くなって位はいるが僅かながら段が付いていて、クロス中和が過剰に効いているかも知れない。この辺はおいおい詰めていこう。


 矩形波の様子から推測できることは高域で周波数特性が素直には減衰せず段が付いているのだろう。手持ちの古い測定機材で分かることはオーバーシュートやリンギングのような不安定要素はないということ。

 もしクロス中和を止めるとすると、初段の後に入力容量の少ないカソード・フォロワ段を挟むというオプションもある。今回の方針のひとつ、「なるべくシンプルに」に反するのだが。カソード・フォロワは別に強力な低rp管でなくてよく、ゲインの減少を考えると高µの12AX7の類でも良い。真空管がウォームアップするまでの間、電源にディレー回路が組み込まれてなくても6463のグリッド電圧が高電圧になることは無い。もっとも現状の二段直結でも6463の負荷が抵抗で共通カソードにも大きな抵抗が入っているので、真空管に大きな負荷はかからないし、初段のB電源にもたっぷりブリーダー電流を流してあるので初段のプレートも急に高電圧になることはない。ヒーター・カソード耐圧を考えるとヒーターは6463と共通で良い。ただ、三段直結となると別の不安定要素が入る気もするが。(2022.01.10)

 カソード・フォロワ段が入ると直流電圧の配分の抵抗値を変えないといけない。また、カソード・フォロワによって終段との間の高域時定数が高い周波数に回避できるが、初段との間にも時定数がはいってくる。下手をすると簡単に簡単に発振する。それもかなり高い周波数で。そうなると厄介だ。(2022.01.11)

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