SR-X MK3 ジャンクの修理

 SR-X MK3のジャンク品をポチってしまった。

外見はかなり悪い。倉庫の奥のような臭いもする。後できれいにしてやろう。とりあえず動作するかどうかのチェックが先だ。

SR-X MK3は1975年に発売され、10年以上販売されたモデルだ。

MK-14MK-13とSRD-1モドキを繋いで音出しすると、右側は聞こえるが左は無音。ばらしてコードの導通をテスターで見ると左側は信号線は2本とも導通が無い。バイアス腺も0 ΩとなるべきところがMΩ台で安定しない。テスターリードをバイアス腺に当てながらコードを触わると抵抗値が動く。ヘッドホンから出ている編込みコードで、保護用のビニールチューブから出てきた辺りが怪しいと当りをつけた。編み込みの被覆を剥がしてみると、被覆がぽっきりと折れているところがあり、芯線もそこで折れていた。緑青のような色も見えるので、被覆が割れ、湿気で断線したのだろう。

一寸カッコ悪いが左右に分かれた網込みコードの左側だけ10 cm程切り詰める。発音ユニットとの接合はファストンだが同型の未使用のファストン・レセプタクルを持っていないので、元から付いていたファストン・レセプタクルに半田で繋いだ。流石に小型のファストンできつく圧着された部分を開くのは無理だった。音出しすると、左右同じくらいの音量でなるので、取り敢えずはこれで良しとする。

アークに付いていた筈のカバーが無くなっているので、金属剥き出しだが、SR-5改に比べ金属のバネが強いので耳にしっかり当たっている。しっかり当たっている分、発売当時言われていたように耳介が少し圧迫される。音はしっかり、かなり低い部分から出ている。高音域の繊細さはSR-5改の方が良いかも知れないが、元気が良く、これはこれで悪くない。聴感だけの感覚だがSR-5改より歪も少ない気もする。どっちが好きかはまた別の問題で、現時点ではSR-5改の方が聴き易く好ましい。

暫く聴いていて分かったことだが、右側は低音域から聴感上フラットな感じだが、左側は低音が少し寂しい。発音体ユニットがダメージを受けている可能性があるので点検が必要だ。

左側はコードが断線していたためしっかり分解した。発音体ユニットに取り付けられている防湿膜が破れていたところをみると、以前の持ち主か誰かが左側から音が出ないことを何とかしようと筐体を開けてみたのだろう。発音体ユニットには防湿膜が接着され、さらにその周縁を鉄のリングが抑え、そのリングは金網のついた音の窓に接着されているのだが、その接着が弱くなっている。これ発音体の前後に音の通り道を作り、100 Hz以下の低音が減衰する。

まず防湿膜だが、おそらく1 µm程度の薄膜で少し皺が寄せられており、おそらくは特定の周波数での共振を防いでいるのであろう。この防湿膜はあちこち破れている。いじらない限りそうそう敗れるものではないので、以前誰かが開けた時に無理をして破った可能性が高い。

発音体ユニットは、振動膜が電極にへばりついたりもせず、綺麗である。不思議なのは、周縁をリング状のアルミ板で挟まれた振動膜Assyの前後にステンレス?製らしいリング状のスペーサーらしいものが計2枚入っている。手元にノギス等が無かったので振動膜Assyの厚みを計らなかったのだが、ぱっと見0.5~0.6 mm。SR-Xのギャップは300 µm(片側)と言われており、両側で0.6 mmとなる。それに前後に200 µm厚の金属スペーサが入るとギャップは1.0 mmとなる。これは後継機のSR-X MK3 Proのギャップに相当する。インターネットで検索しても残念ながら「SR-X MK3を分解した」人の情報は得られないので、もともと金属性のリング状スペーサーがノーマルバイアスのSR-X MK3に使われていたのかどうか分からない。

ひょっとしてだが、発音体だけSR-X MK3 Proのものに換装されていたのかも知れない。昭和の時代のSTAX社はアンプを自作するマニアのために安価でコネクタを提供したり、ユーザーの要望に対応して丁寧に分解修理やアップグレードをしてくれたという話も聞いた覚えがある。ユーザーの要望でSR-X MK3 Proの発音体ユニットに換装するようなサービスがあったのかも知れない。勿論、これは間違った推測かも知れない。SR-X MK3 Proにリング状スペーサが使われていたかどうかも知らないのだから。

なお、SR-X MK3やSR-5の発音ユニットの基本構造は良くできていて、横から止めているイモネジの位置は微妙に変更が必要かもしれないが、振動膜Assyにスペーサをかませてギャップを片側300 µmから500 µmに変更できる。使われているプラスチックがリークとかせず高電圧に耐えるならば、同じ振動膜Assyを使いスペーサの変更だけで発音体ユニットをプロバイアス仕様に変更できたとは思う。

さて、まずは破れた防湿膜を何とかしないといけない。さすがに1 µmのフィルムは持っていないので、以前静電型スピーカの振動膜用にeBayから入手した3 µmのマイラー・フィルムを手で揉んでそれっぽいものにしてリング状に切った両面テープで発音体に接着。防湿膜は音の通り道にあるので、音質的には無い方が良いのかも知れないが、人体から発生する水蒸気の影響を考えると矢張りある方が耐久性は高くなるだろう。

防湿膜の上にリング状両面テープで鉄製と思われるリングを接着し、更にリング状両面テープで筐体の後側の蓋状の部分(金網のついた音の通り道が丸く開いており、そこを通って耳に音が送り込まれる)に接着した。しっかり固定され、発音ユニットの前後に音の抜け道が無くなったことで左側の低音の不足はほぼ解消した。

鳴らしてみたが、左の音圧が僅かに低いかも知れないが、気になるほどではない。時間が経つと左右差は無くなるかも知れない。暫くはこれで聴いてみよう。発音体と耳の距離が短く解像度重視という発売当時のSTAXの主張は分かる気がする。冷静に聴いてみるとフラットな普通の音だが細かいところまで聞こえる気がするということもできる。聞きなれた楽曲でも新鮮に感じる。耳介への若干の圧迫感も当時の評判通りだ。頭に当たるアークに元はあったはずの合成皮革のカバーが無くなっており、少なくなった頭髪を考えると布か皮でカバーを作った方が良さそうだ。

左右から音はでるようになったので、とりあえず測定。マイクはアダプタを使うとイヤパッドと干渉するので、平らな発泡スチロールに6 mmφのマイクを埋めて測定。100 Hz以下は少し薄く、左右も多少異なるが、全体的にはそこそこフラットだ。本機の製造年は不明だが、少なくとも30歳以上、仮に発売当初のものなら46歳のヘッドホンの性能としては立派なものだと思う。時間をかけて外観も磨いてやろうかな。





コメント

  1. いつも興味深く拝見しています。私も40年以上前からSTAXを使用しておりSR-3、SR-Λ、SR-009があります。SR-3、Λも振動系を交換してもらいました。

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    1. 有難う御座います。最初に聴いたSTAXは友人のSR-3で、当時はもちろん、その後も手が届かず、そのままになっていましたが、最近、古い、いわゆるジャンク品を手に入れて、修理と称して弄っています。静電(コンデンサ)型ならではの独特の魅力がありますね。

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