TI社のTPA3255 PBTL (2)

 QUAD 405-2の筐体に仕込んだ基板だが、本来のステレオの仕様に従って1枚にしてみた。クロック周波数と思われる約450 kHzが出力端子に結構漏れている。1枚の基板でステレオとして普通のスピーカーなら十分のようだ。PBTLの必要は無い。しかし、こちらは高音域でインピーダンスが下がる静電型をドライブすることを考えているので、出来るだけのことをしてみたい。

 取り外した方の基板からヒートシンクを外し、TPA3255の足(ピン)をじっと見る。小さい。これのはんだ付けは老眼にはつらい。実態顕微鏡を借りてきてシャープなナイフで突いてみるとはんだは結構柔らかい。要は4ピンを浮かせて11ピンに繋ぎ、16ピン(入力C)と17ピン(入力D)を前段のICの出力とつながった電解コンデンサから離してアースに落とせば宜しい。書くと簡単だが、これがなかなか難しい。

 ナイフではんだを切っていくとバターのように切れるので、ピンを浮かせるのはそれほど難しくは無かったが、そのピンに銅線を繋いで配線するのは簡単でない。4ピンと11ピンは何とか繋いだが、空中配線なので、はんだが多いとどっかと接触しそうだ。かといってはんだの量を減らすとすぐ外れてしまう。

 16ピンと17ピンは最初はつながっているプリント基板の銅箔を切ってみたが、これは後で考えると必要なかった。ピンを浮かせてはんだ付けを試みているうちにピンが根元からポロっと取れてしまった、これでTPA3255は一巻の終わり。

 テキサス・インスツルメンツ(TI)社のICは秋葉原では入手し難くなっている。同社の方針によりエンド・ユーザーを特定できない流通経路でのIC等の販売が出来無くなったからである。逆に現行部品であればTI ストアから1個からでも取り寄せることができる。とりあえずTI ストア・アカウントを登録をして購入を試みた。TPA3255は一個800円弱。2個注文して送料や関税・税金を入れて2,553円と思ったよりリーズナブルだ。多分待たされるだろうなあと思っていたが、数日で届いた。シンガポールからである。TI社から送られてきたので本物に間違いない。実はネット等で手に入るTI社のオペアンプ等にはまがい物があるのだそうだ。どれが本物でどれが偽物で、どの程度性能が異なるのか区別のつかない私などはカモなのかも知れない。その点、今回のは間違いない。

 まず。足の折れたICを基板から取り外すことになった。TPA3255は上にヒートシンクに放熱する金属部分のあるHTSSOP (DDV)で片側22ピン、計44ピンである。4辺がピンで囲まれているのではなく長辺の2辺にだけピンが生えているので頑張れば何とかなりそうだ。老眼のハンディキャップは拡大鏡(実態顕微鏡)で相殺する。

 最初ははんだごてでピンを一本ずつ熱してみたりしたのだがそれでは外れない。どうせピン折れで再利用が出来ないものだからと思い切った方法で外すことにした。はんだ吸い取り線(銅線)を2センチ程に切ってICのピンの上に置き、はんだを溶かし込む。ピンと基盤の接合部のはんだが全体に溶けた頃合いでICの下にナイフの刃を差し込みちょっとだけ浮かすとピンが基板から離れる。反対側のピンも同様に浮かすと結構簡単にICを外すことが出来た。

 4ピンは思った通り3ピンとICの下で繋がっているので、その部分の銅箔を切る。これはナイフで簡単にできる。その後4ピンのはんだ付けされた銅箔と11ピンのはんだ付けされた銅箔とを0.32mmφのスズメッキ線で繋ぐ。きれいにはいかなかったが、しっかり接続できた。はんだ付けの後はアルコールでフラックスの汚れをきれいに拭き取る。ああでもないこうでもないと試行錯誤というか失敗の繰り返しでプリント基板の保護コーティングがあっちこっち剥げてしまったので、手持ちのスプレーの中にあったハヤコートMark 2を塗っておいた。これも直接スプレーではなく、紙にスプレーして、それを小さな紙片を刷毛代わりにして塗ってみた。手持ちのハヤコートMark 2は青色でなく緑色なんだが、まあいいさ。また、電源の大きめの電解コンデンサの被覆まで所々はんだごてで触って溶かしてしまったが、まあ実害は無いだろう。


 元々は放熱用シリコンオイルを介してヒートシンクが2本のビスで基板に固定されていたが、トランジスタ用の放熱シートであるマックエイトのマックシートCW-3 (TO-220用)が数枚余っていたので、1枚噛ましてヒートシンクを取り付けた。マイカ板を介しているわけではないのでシリコンオイルだけの方が熱的には良かったかもしれないが、4ピンと11ピンを繋いでいるメッキ線がヒートシンクと接触したりしないようにという老婆心でマックシートの起用となった。

 ついでに、16ピンと17ピンに繋がる電解コンデンサ、IC(TL072C らしい)を外す。IC周りの抵抗やコンデンサも外したいが、面倒なのでそのままにしておく。16ピンと17ピンからつながった銅箔から反対側にスルーホールで繋がっている部分のすぐ横の銅箔にもアースに繋がるスルーホールのがあるので、この三つのコーティングを剥いで0.32mmφのスズメッキ線で繋ぐ(下図の矢印)。出力側はフィルタを通った後でパラレルに繋いでいる(下図の赤と黒のコード)。


 取り敢えず手元にあった006P乾電池(9 V)を3本直列にして電源に繋ぎ、ダミーロードを繋いで動作を確認した上で音楽信号を入れ、スピーカーからの音を確認する。問題無し。これで2回路ステレオ仕様の中国製TPA3255ジェネリック基板をTI社の推奨通りのTPA3255 PBTLモノーラル基板に無事改造できたことになる。もう1枚同じ改造をすれば例のQUAD 405-2の筐体にセットしよう。今度は改造の手順で試行錯誤する必要は無い。取り外すときの加熱に注意すれば取り外したTPA3255を再利用できるだろう。

 この改造基板の入力インピーダンスは10 kΩなので、トランジスタやICのプリアンプあるいはPCやデジタル・プレーヤのヘッドフォン端子に接続するなら全く問題ないが、真空管プリアンプにはちょっと厳しいかも知れない。まあ、ぎりぎり許容範囲だろうとは思っている。405-2の筐体には100 kΩ(B型)の可変抵抗器があるので、これを繋いだ場合、最大から30 度位(10 kΩと90 kΩに分割と仮定)絞ると感度は約7dB下がるが入力インピーダンスは18 kΩ位に上昇するので、大抵の真空管プリなら大きな問題は無いだろう。

 本音を言うとシングル入力とバランス入力を切り替えられるようにしておきたいのだが、そのためには既存の回路を弄るよりオペアンプの部分をそっくり別の基板上に作ってコンデンサを介してピン5(入力A)とピン6(入力B)に送り込む方が良いかも知れない、とも思った。しかし、TI社の評価用基板の回路と入手したジェネリック基板を見比べていて気が付いてしまった。下図の赤い楕円で囲んだ10 kΩを外付けにしてそれに切り替えスイッチと入力用の電解コンデンサを繋げばシングル入力とバランス入力を簡単に切り替えられるじゃないか、と。バランス入力が本当に必要に生じたときにやってみよう。今の処、シングル入力(非平衡入力)-バランス出力で構わないので。



 


コメント

このブログの人気の投稿

静電型(コンデンサ型)ヘッドホン専用アンプ 36

静電型(コンデンサ型)ヘッドホン専用アンプ 35

SR-α Pro Excellent (ジャンク)