Acoustat 3 (2)

さて、裸のAcoustat Model Three (3)なのだが、裸というよりスケルトン君と呼んだ方がカッコいいかな? 下図の所謂C-modを施したものだが、快調である。C-modに際しては赤く囲った方法を採用した。10 Ωは30 Ω 10 Wのセメント抵抗を3本パラだ。


今の所、下の画像のように椅子に立て掛けて聴いている。


汚れは兎も角、音は私好み。ちょっとMySpeakerで測定(2 m)を試みた。MySpeakerとはBachagi.h氏が以前公開されていたスピーカー自作者向け測定アプリである。


ざっと見たところ期待以上にフラットな特性だ。低音域の50 Hzのピークは商用電源からのハムであろう。スピーカーに耳を付けても聞こえないので周りからマイクに入ってきたようだ。測定した部屋には冷蔵庫などの機器があるため、やむを得ない。万一、Acoustatの高圧バイアス回路からハムが生じているのなら、整流回路と500 MΩの間に10 MΩと0.01 µF 10 kV程度のRCフィルタで平滑回路を仕込めば宜い。500 MΩと発音ユニットの間にコンデンサーを入れている例もあるが、好ましく無い。もしもの時に危険だし、振動膜が大きく振動して固定電極とタッチあるいは近接したときにアーク放電を起こしたりして、燃えてしまう可能性が出てくる。高圧バイアス電源と発音ユニットの間に高抵抗の入っていないQUAD ESL57では高音ユニットや中高音ユニットに焼けこげのできた個体が多い。

最高音域の方は13 kHz辺りに一寸したピークがあってそこから急峻に下がっているが、このピークはひとつにはトランスと発音ユニットの共振であり、部分的には測定系のせいでもあろう。MySpeakerのマイク補正を利用して下図のように多少補正をしたのだが、一寸うねっているので。いずれにしろ我が駄耳では残念ながら最早ほとんど聞こえない領域だ。13 kHz辺りのピークはAcoustatのインターフェイス・ユニットMK-121-2Aのレオスタットのつまみである程度調整できるはずである。この特性なら、ちゃんとしたフレームを作ってやろうかという心持ちにもなってくる。15 kHz以上が急峻に落ちるのは振動膜が比較的厚い(16.5 µm)せいもある。買い置きのある厚さ4 µmのものを使えばもう少し高いところまでフラットにできるだろうが、聞こえていない帯域なので振動膜が破れでもしない限り手を出すつもりはない。むしろ高音域用のトランスを換えて共振をもっと高いところに持っていく方がまだ現実的だ。


1986年1月号の無線と實験には「ダイポール型スピーカー6機種の測定と試聴」という特集が組まれた。6機種のひとつとしてAcoustat Model Three (3)の測定結果(下図)が載っている。フォステクス(株)(現 フォスター電機株式会社)の黒川輝夫 氏が測定項目について解説している。周波数特性はやや蒲鉾型だが、うちのスケルトン君と似て割とフラットだ。300 Hzから3 kHzが僅かに盛り上がっている点は共通のようだ。

無線と實験 1986年1月号 p.55より引用(著作権等問題があればご連絡下さい)

写真から判断すると、この測定に供試されたModel Three (3) にはインターフェイスとしてMK-121Cが組み付けられていたようだ。MK-121Bかも知れないが。MK-121Cは1985年にDavid Hafler CompanyがAcoustatを買収してから使われるようになったものである。MK-121BからMK-121Cへの変更はMedallionトランスの採用と後にC-modと呼ばれる回路への変更でこれにより高音用のトランスに入る音声信号の低音域を減少させている(低域遮断周波数が上がっている)。Medallionトランスは特性の向上というよりは巻線の絶縁が改善されたのかも知れない。1982年にLPレコードからCDにソースが変わり、パワーアンプの出力も100 W/8 Ω超が当たり前になった。つまり最大出力が30 V以上となり、低音用トランスの2次側には約8,000 V(1:266のタップで)が発生する。これは大変な高圧で、かなり高級な(高価な)真空管アンプ用出力トランスの絶縁耐圧試験も2,000 V(AC)が普通でしょう。

無線と實験ではインピーダンスの周波数特性も測定しており、50 Hzで16 Ω、1 kHz~2 kHzでは6 Ω、7 kHzで4 Ω、16 kHzで2 Ω程度となっていて、創業者のJames C. Stricklandの著したThe technology of Full-range-element Electrostatic Loudspeakersに載っているMK-121のインピーダンス特性と比べると低音域で上昇している。これは高音域用のトランスの低域遮断周波数が上がりアンプ側から見た低音域のインピーダンスが並列に入る低音用のトランスにより依存するような回路の変更によると考えられる。

インターネット検索をするとAcoustat Model Three/M(3M、モジュール型のフレーム)の特性を同じMySpeakerを使って測定しておられる方を発見した。同じ発音ユニット3枚である。インターフェースはオリジナルのMK-121であろう。レオスタットの位置を変えて測定しておられるので貴重な情報である。オリジナルのMK-121であればC-modのスケルトン君とは直接比べられないが、レオスタットを右に回し切ると13 kHz辺りにピークが出来、12時の位置でピークが大分低くなり、左に絞り切るとピークが無くなり高い周波数に向かって徐々に素直に減衰しする。ご本人は1時の位置がベストとの由。C-modを施したスケルトン君もレオスタットの位置を変えて丁寧に測定すべきだったかな?(2021.01.23)(2021.01.24一部改変)。





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