SR-5 driven by 50CA10
さて、SRD6改はなかなか頑張っていてきれいなんだが、今ひとつ箱庭的な印象。そこで長らく眠っていた50CA10 差動プッシュプルのMK-13を引っ張り出してきた。
初代Stax イヤースピーカーSR-1の時代に販売されていたSRD1を思い出したのである。残念ながら本物のSRD1は見たことが無い。しかし、その仕組みは簡単。当時標準的だった真空管のプシュプル・アンプの出力トランス(OPT)の1次側から音声信号を取り出して、コンデンサーで直流を切るだけ。今では考えられない装置だ。ユーザーが筐体を開けて数百ボルトかかっている終段のプレートから外部に線を引き出すのだから。しかし、原理的には分かり易い。どう考えてもOPTで数十分の一に下げて、再度ドライバートランスで数十倍に上げるのは良い筈が無い。多極管のプッシュプル・アンプではOPTの2次側を開放にしたくは無いが、内部抵抗の低い三極管ならまず問題無いだろう。センタータップ付チョーク負荷のプッシュプル・アンプという形である。
スピーカ端子から初段のカソードに戻していた負帰還は取り去り、カソード間に入れた2 kΩの可変抵抗器を調整して両チャンネルの利得を揃えた。MK-13の入力インピーダンスは600 Ωだが、PCの出力なら接続しても大丈夫と割り切る。SR-5のバイアスは、カソードフォロワ段のプレート側の電源電圧がたまたま230 V前後なのでそこから取る。
直流を切る0.4 μFのフィルムコンデンサと1 MΩの抵抗、そしてバイアス電源に入れた2本シリーズの3.3 MΩはSDR6の筐体の中にラグ板を入れて配線した。1960年代のご先祖様であるSRD1では多分0.047μF(おそらくオイル・コンデンサ)が使われていた筈だと思うのだが、今回はニチコンのメタライズド・フィルムの0.4 μF 1kVを用いた。2本の3.3 MΩは分解したSRD6から融通したものである。
早速聴いてみる。SRD7では時として電灯線から入ってきたような僅かな雑音が時に聞こえたが、今回は全く静かである。ちょっと粗削りなところもあるが、トランス式より自然だ。PCに取り込んだCDの再生にも良いし、youtubeにUPされたクラシック音楽やインド伝統音楽Raag等々、とっても生々しく、かつゆったりと聞こえる。負帰還は不要のようだ。このゆったり感が良い。うん、やっぱり良い。トランス式のSRD7改に戻れそうに無い(2020.12.03、一部改変2020.12.04)。
音は満足できるものだが、考えてみるとコストパフォーマンスはあまり良くない。新たに投資した訳ではなく、休眠していたアンプのリユースであるのだが、消費電力は少なくない。
50CA10 のセンタータップ付チョーク負荷となっているタムラF783は、2次開放で1次側に120 pFのコンデンサをパラに入れてインピーダンスを測ってみると、1kHz前後にピークを持ってそれ以下は誘導性、それ以上は容量性の山形である。したがってアンプ全体の利得の周波数特性も中音域が高く上下で下がる筈なのだが、50CA10が三極管であるため負荷直線(実際には曲線だが)の傾きが変化してあまり変わらない。50CA10の内部抵抗の和がタムラF783の1次側にパラレルに入っていると考えることもできる。こんど周波数特性を測ってみよう。多分だが、10 kHzの矩形波はSRD7改に比べて際立ってきれいな筈だ。もし周波数特性がフラットでなく山形であったら、プッシュプルのプレート間に50 kΩ 5 W程度の抵抗を入れてみると良いだろう。
こうなると、さらに電源電圧を積み増してトランスでは無く抵抗負荷にするとどうだろうかだとか、いや、50CA10よりももっと電流を流さなくても良い真空管ならどうなるだろうか、あるいは、カソードフォロワとかクロスシャント・プッシュプルCSPPならどうだろうかと、試してみたくなる。50CA10、2A3、300B、6CA7三結等であれば、多分同様の結果が得られるだろう。 トランス負荷(センタータップ付チョーク負荷)であれば、終段のアース側を電源電圧分だけ負にシフトさせてプレートの電位が0 V前後になるようにすれば、イヤースピーカーにつながるコンデンサが省略できる。勿論シフトさせただけ入力側にコンデンサーが必要になるだろうが。このようにプラスマイナス電源を用いたSRPPのBTLでなくても出力コンデンサを省略する方法はある。
MK13の場合には50CA10を低インピーダンスでドライブするためにカソードフォロワ段を入れた。差動なのでグリッド電流が流れる領域まで使うことは無い。初段に比較的内部抵抗の高い双三極管(当初はECC83/12AX7A、後に12AY7Aに変更)を考えていたのでその負荷抵抗を高くし、かつ50CA10のミラー効果による高音域の減衰を免れる目的であった。もし初段で十分な利得を確保したうえで内部抵抗を低く抑えること(例えば五極管+三極管のぺるけドライブとかμフォロワで)が出来れば、カソードフォロワ段は必要なくなる。
カタログに拠るとイヤースピーカーSR-5の静電容量が約120 pF(含コード)、10 kHzでのインピーダンス約130 kΩであるから、万が一10 kHzで300 VRMSが必要だとしても(耳がつぶれそうだが)2.3 mA流せれば宜い。凡そ0.7 W出せれば良いのである。トランスを介するより容易だといえる。ではあるが、10 kHzの矩形波をきれいに出そうと思うと、含まれる高次成分を考えるとフラットな周波数特性とそれなりの電流を流せるアンプである必要がある。容量性負荷だから周波数に反比例してインピーダンスは小さくなる。従って、50CA10のプッシュプル・アンプを引っ張り出してきたのはあながち間違ってはいないと思う。もう少しスマートな方法を採るべきか?あるいは更に大仰な300Bのプッシュプル・アンプとか?考えていると楽しいものである。小型でスマートにするには7044あたりのカソードフォロワ等も面白い(2020.12.04)。
ま、暫くは50CA10で行きましょうか。現状で1kHzの利得は約58 dB、20 Hzで約-0.5 dB、10 Hzで約-2 dB、10 kHzで-0.5 dB、20 kHzで-1.5 dBで、入力トランスで位相反転するNFB無しの真空管アンプという条件では健闘していると思うが、高音域は割と早くから減衰している。それを反映して10 kHz(画面には9.9514 kHzと出ている)の矩形波は下図の通りで、立ち上がりはちょっとなまっているし可聴域より上に少し特性のアバレがあるようだ。しかし、取り敢えずトランス式のSRD7改よりはキレイだ。
LuxのSQ38F類の大ファンには申し訳無いが、50CA10や6CA10 のプッシュプル・アンプはよく聞いたし何度か自作もしたけど普通の音だという感じで特別な感慨はない。6CA7(EL34)とか6GA4のプッシュプルはシャキっとした感じでいかにもHiFiですよ、と主張し、最初は良いのだがたまに神経質な感があるのに対し、それに比べたら50CA10はちょっとダルというか、大人しくホワっとした感じで決して嫌いではないけど、特別惹かれている訳ではない。神戸にあったサンエイエンタープライズから購入したWE300Bモドキ(無印の300B、WEと同じ工場で作った?)が眠っているのでイヤースピーカー用にプッシュプルで使ってみたいものだ。これも眠っている傷だらけのタムラF783をセンタータップ付チョーク負荷とするか、電源を嵩上げして抵抗負荷(凄く発熱しそう)とするか。考えるだけで楽しい(2020.12.05)。
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