SR-5 driven by 50CA10 (2)
SR-5の右側の寝起きが悪い。1時間もすると大分揃ってくるが、それでもピンクノイズで確認すると1dB~2dB低い。おまけに入力が大きいと僅かに右側が歪むようだ。PCのサウンドの設定で少しずらして聞いていたがちょっと気になる。1dB以上差があると気持ちが悪い。
振動膜に高圧バイアスがうまく届いていない可能性が高いので右側だけ分解してみる。
高圧バイアスは探針状の金属(真鍮?)の金具に接続され、その先端がプラスチックの孔を通ってわずか(0.1㎜~0.2㎜位?)に先端を突出させている。金具の弾性でその先端は振動膜の外側を両側から挟んでいるドーナツ状のアルミ板に押し付けられている。どうもここの接触が悪かった様である。円形の振動膜アッセンブリを少し回して接触部位をずらし、両側の固定電極と振動膜アッセンブリとがしっかり押し付けられるように両側から挟むように持ち乍ら両側のプラスチックの枠を4本のビス(先がとがった頭の無い止ネジ)でプラスチックを傷めない程度にしっかり固定する。これで良し。
元通りに組み立てイヤーパットを被せて試聴する。両側からしっかり音が出て、モノーラル音像は頭の中の真ん中だ。低音から高音迄出てるし、これで宜しい。ここ数日左右の音圧差が気になっていたのだが完全に霧散解消した。
高圧バイアスはプロバイアス(当初はハイバイアスとも)とStaxが呼称する580Vが一般化する前は200V前後だった。SR-1の頃は100V~160V程度で始まりやがて200V程度になったようだ。昔雑誌で見たSR-3の宣伝には200Vとあったと記憶している。本機SR-5もカタログや取説には200Vとある。SRD-6やSRD-7のバイアス電圧が160Vだからといって老朽化したという訳では無いのかも知れ無い。
580Vの高圧バイアスがプロバイアスとされて以降、それ以前のバイアスをノーマルバイアスと呼ぶようになり、その電圧は230Vと書かれたものが多い。SR-5に230Vのバイアスを加えても特段問題無い様だ。プロバイアスのソケットが5ピンでノーマルバイアスのそれが6ピンなのはよく考えてある。プロバイアス用のイヤースピーカーの5ピンのプラグは両方に刺すことができ、利用することができる。ちょっと能率は落ちるかも知れないが実用上問題は無いだろう。逆にノーマルバイアスのイヤースピーカーをプロバイアスのアンプやアダプターやドライバに接続出来てしまうと設計時の想定を大きく超えているので一寸危険である。上手くしたもので5ピンのソケットに6ピンのプラグは差し込め無いので、逆は出来無いように出来ている。アマチュア的には6ピンのプラグをプロバイアス用にするためには真ん中(ピン6)にシールを張るとか、接着剤を満たすとか、あるいはプラスチックの棒を嵌めるとかして、6ピンプラグが刺せ無い様にしてしまえば安心である。つまり、古いアダプターを格安で購入したら6ピンのソケットが入手でき、簡単な加工で5ピンのソケットに改造できるのである。
静電型スピーカ(ヘッドフォン型も含めて)に於いて他の条件をそのままにバイアス電圧を高くすると、振動膜の負のスティフネスの絶対値が大きくなり、膜が振動しやすくなる。したがって効率は向上するし、音量を上げることができる。最低共振周波数も下る(他の条件が変わらなければ)。ただ、振幅が大きくなると固定電極とタッチする可能性が出て来るので、固定電極と振動膜との距離を大きくとり、かつ振動膜の張力を高める必要が出て来る。振動膜の張力を高めると共振周波数が上がり、結局最低共振周波数はそんなに変わらない。SR-5の場合、バイアス電圧の200Vと230Vは誤差の範囲だろう。なお、バイアスが高電圧なので危険なのではと考える方もおられよう。今回のMK-13の50CA10のプレート側からコンデンサで直流を切って音声信号をSR-5に送り込むSRD-1モドキ・アダプターの場合、高圧バイアス回路には6.6MΩの抵抗が直列に入っているので大きな電流が流れることは無い。仮に短絡しても38µAしか流れないのだ。
ノーマルバイアス機の固定電極間は0.6mm、プロバイアスでは1mmと書かれることが多い。具体的にどの機種の事か知らないが、多分SR-ΛとSR-Λ Professionalなのだろう。私はするつもりは無いが、古いノーマルバイアスのイヤースピーカーを入手して、振動版アッセンブリの両側に夫々0.2mm程度の薄い金属スペーサを入れて振動版アッセンブリーと両側の固定電極の間隔を広げて、バイアス電圧を580Vにしたらどんな音が出るのだろうか?すでに試みている人がいても驚かない。アダプターとイヤースピーカーを繋ぐコードの耐圧が一寸気になるが、実際に送り込まれる音声信号の電圧はそれほど大きくないから、問題になるなら高圧バイアスのコードだけ高耐圧のものを別に用意すれば宜しい。
聞き比べをせずに勝手なことを言わせてもらうと、ノーマルバイアスとプロバイアスでは能率が多少違うことと最大音圧が異なる以外にそんなに大きな差が無いのではないかなとも思っている。それを証明するようにノーマルバイアス機をメンテし乍ら長年使っている人が結構いるようなので。しかもノーマルバイアス機とプロバイアス機を両方所有しながらノーマルバイアス機の方を愛用している方も居られるらしい。楕円形の大きな振動膜は能率と音圧を稼ぐには都合が良いが、音質面ではどうなのだろう?デメリットは無いのかな?
Staxの振動膜の薄さも6μ(µm)から始まって1μ~1.5μまでいきついているが、台所用ラップ(サランラップが約11μとのこと)とかもやしの袋で代用している人もいる。結構まともな音が出る筈だと思う。違いはあっても10kHz以上の超高音域だろうし、その音域はただでさえ駆動が難しい領域だし、しかも差異は聞き取り難い。此処だけの話、私の耳は12kHz以上は殆ど駄目だ。拘りたければ、eBayで静電スピーカ用の2μ厚のマイラー・フィルムが販売されている。
静電型スピーカは高電圧のバイアス電源が必要だったり、駆動に高い電圧が必要だったり、固定電極の形状や振動膜のコーティングなど難しい点は色々あるが、アマチュアが精度の低い加工技術でやっても少なくとも中高音域はそれなりに歪の少ない音が出るシステムと言える。静電型スピーカを自作するアマチュアは欧米には結構いるようだ。静電型スピーカのレストアや自作のための素材を提供している会社もある。ただ、能率を上げたり、可聴周波数全体に渡って十分な音圧を得ようとすると泥沼にはまるようだ。。。
現在のStaxはいろんなモデルが販売されていて、しかもそれなりに差別化されているようだ。音も違うのかな?最近のモデルは振動膜の外側のダンプ材が省略されているのがちょっと気になる。振動膜が透けてみえるのは格好が良いが。低音域などに無用な盛り上がり等は無いのだろうか?
衝立型の静電型スピーカでもそうなのだが、低音の制動には適量のダンプ材が重要である。アマチュア的には制動材なしに振動膜が自由に動く方が解像度の高い自然な良い音がでるような気がするのだが、実際に周波数特性を取ってみると共振(特に低音域)が悪さをしていることがある。QUAD ESL57のレストアでも後ろのダンプ材を外す方もいて、暫くは解像度が高いと喜んでいるが暫くすると疲れてきてダンプ材を戻したという記事をWebで読んだことがある。また、透明で後ろが透けてみえるMartin LoganのCSL IIでも、両側の低音域部分の後ろの固定電極の内側に透明な膜が張り付けられていて、ぱっと見では分からないようにダンプ材が設置されている。Acoustatも発音ユニットの真ん中あたりにフェルトが貼られている。SR-5の外側のダンプ材も音漏れ防止の吸音材ではなく、不要な共振を防ぐために設置されているように思う。
まあ、人の心配するより自分の装置を測定しなさいって?そうですね。周波数特性位測れるようにイヤースピーカーとマイクを固定する治具を考えてみよう。
それから、50CA10のMK-13はちょっと大げさな気がする。スマートな専用アンプを考えてみたい。ただ、高音域を伸ばそうとすると結構難しい。10kHzで130kΩというと楽そうだが、10kHzで100VRMSの矩形波をきれいに通そうとすると、言い換えると20kHzで65kΩ、40kHzで33kΩ、100kHzで13kΩをしっかりドライブするとなると、これは難しい。私の耳ではもうどうでも良い領域だが、コウモリ耳の娘や息子を納得させるとなると(2020.12.12)。
ヘッドホンというものは左右の分離がきつく感じることがある。実際に音楽にしろ身の回りの音にしても、音の来る方向はある程度分かるが、あんなに右だけ、左だけの音を聞くことはない。特に低音域では普段は方向性は感じにくい。Staxにも在籍した丹羽久雄という方がフォンテック・リサーチという会社を立ち上げてミニフォンというかなりマニアックなシリーズを開発していた。ラジオ技術誌上で見ただけで聴いたことは無い。左右に発音ユニットを2枚を配し(複合振動系)、左側の音声信号はCR回路を通じて右側の複合振動系の外側のユニットで、同様に右側の信号はCR回路を通じて左側の複合振動系の外側のユニット再生し、前方定位を実現しようという野心的な機種もあった。CR回路によってfL=100Hzから-6dBで下がり11dB下がったところでフラットになっている。面白いとは思ったが、あまり話題にはならなかったと記憶している。前方定位の試みとして面白いと思ったが、それ以上に低音域を中心に左右ミックスするという点が気になった。複合振動系ではなく、アンプの入口(或いはプリアンプ部)で同様の周波数特性になるようにしてアナログ加算したらどうだろうか?低音域はある程度ミックスされ、一定の周波数から上は低減され遅延した信号が加わることになる(2020.12.13)。
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