Martin Logan 4

新しい職場への、片道3時間弱の通勤を始めて半年。しんどいが慣れた。一日のうち6時間近くを通勤に取られると、さすがにジャンク・オーディオをいじっている暇はない。家に帰るともう眠いのである。しかも、暑い日が続くが、懐は寒いのである!

以上のように分解したMartin Logan (ML社)CS IIaの組み立てはリソース(時間と予算)不足で見通しが立たない。

仕事場では、BGM用にDS500 (DIATONE)をR-SA7 (KENWOOD)で駆動している。音源はPCの中だ。どうせ大きな音を出せる環境ではない。DS500は以前なかなか柔らかくならなかったエッジが自動車のブレーキ・フルイドで嘘のように柔らかくなった。R-SA7は接触不良を起こす出力部のリレーを取換え、発条の弱った出力端子をバナナプラグ用のジャックに換えたので、まだまだ使えそうである。スピーカの音は少々不満で、本音を言えば、家のESL57改を持っていきたい。

ヤフオクにAcoustat model 3 +MK-121-2とかオリジナル箱入QUAD ESL57といった静電型スピーカー(Electrostatic Loudspeaker, ESL)がぽつぽつと出品されているので大いにそそられるが、ガマンガマン。でも、仕事場にひとつ欲しいなあ。。

その影響もあってAcoustatについていろいろ調べてみた。低域・中域用のトランスと中域・高域用のトランスを使って、巻き線比の高い大型のトランスの弊害(特に高域)をうまく逃れている。もっとも普通に考えて二個のトランスをつなげば高域に深いディップとか生じそうである。

また、当初の回路には難があり、中域・高域用のトランスにも低域の音声信号が入力されてコアがサチっていそうだし、発表された改変回路は高域調整のボリウムを絞るとアンプの出力端子にでっかいコンデンサ(220μF+10μF+0.1μF パラ)がパラで入るという変なもの。最終的にC-modと呼ばれる改変回路ではシリーズに入るコンデンサの容量が小さくなり、中域・高域用のトランスへの低域信号の入力は減り、きちんと抵抗と可変抵抗で分圧された音声人号が中域・高域用のトランスに入力されるようになった。が、それでもアンプから見ると計16Ωの抵抗が常に出力にパラに入って熱を派生させるという地球にやさしくない仕様である。

Accoustatの初期のスピーカには、普通のアンプにつなぐインターフェース(昇圧トランス)ではなくドライバー段は半導体ながら終段が真空管(ペントード)のSRPPで上側のプレートに5,000 V(!)かかっているという化け物があった。OTLで、最大1,500 V(多分RMS?)の出力をダイレクトにESLユニットにブチ込んでいたらしい。上側の球のヒーター・カソード電圧はどう処理していたんでしょうね?

まあ、1970年代にはちょっとクレイジーな人たちがいたらしい。会社はHaflerの傘下に入ったり、イタリアの会社に買われたり、そしてそのブランドは中国の会社に買われて、今は消えている。

ただ、数あるESLのなかで、もっとも丈夫なスピーカーのひとつらしい。固定電極(ステータ)にビニル被覆線を用いているからであろう。振動膜も16.5ミクロンとさほど薄くない。ビニル被覆線のステータは良いアイディアだと思う。他にもアマチュアによるESLに採用例がある。低域までしっかりとした音を出す、魅力的なスピーカと言われている。

さて、うちのMartin Loganをどうするか、そろそろ考えねばならない。

MLの円筒形の一部のような、蒲鉾を立てた形はCurved Line Source (CLS)と呼ばれる。このCLS形状はヌリカベのような平板型が多いESLにあって、弱点とされる指向性の問題をある程度解決するひとつの方法である。つまり音場的に優れている。通常のヌリカベESLは指向性が強く、よほど広い部屋でないとリスニングポジションがピンポイントに規定される傾向にあるようだ。

では、欠点はなにか?

振動膜を縦方向にしか強く引っ張れない。横方向に張力を加えるときれいな円筒形の一部にはならない。膜の真ん中辺りが後ろ側のステータに近づいてしまう。なので横方向の張力で共進周波数を加減することはできない。これは、張力が弱ってきたときに他の機種のようにむやみにヒートガンやヘア・ドライヤーで調節できないということだ。

さらに厄介なのは、断面が円弧状の円柱の表面の一部なので、振動膜が前方に動くときには横方向に伸びるのだが、後方に動くときには横方向はむしろ縮むわけで、前後の移動でスティフネスが異なるということになる。移動距離の小さな中・高域では問題にならないが、低域では歪につながるだろう。せっかくのプシュプル構造の対称性が活かせない。

これを解決、あるいは問題を小さくするにはどうしたらいいか?

CLSIIaでは両脇近くに縦のスパーがあり、真ん中に複数の水平のリブがある。これでは弱点は強調される。この構造を諦め、縦に複数のスパーを入れる。そうすると、あたかも縦長のユニットを複数円筒の一部に沿って並べたような形になる。えっと、外側の布(クロース・ソックスと称する)を取り除いたAcoustat model 4みたいな感じかって?まあ、そうなりますね。これで前後のスティフネスの差違の問題を完全には可決できないが小さくはできる。

ついでにスパー全てに電極となる導電性両面テープを貼っておく(振動膜の両面に)と、膜全体への電荷の分散に有利だ。ML社の製品では周りに電極が貼ってあるだけ。膜全体に電荷がちゃんと分散していたのだろうか?

膜への導電性の付与はどうもある種の蒸着で行われていたらしい。当時の日本語のパンフやコマーシャル広告はどうもあてにならないが。今、アマチュアESLerの間ではLicron Crystal(表面抵抗率10^6~10^9 Ω/□?)が一押し。日本市場で見つけたSB-8(10^8~10^10 Ω/□?)は似たようなもののようだが今年はディスコンになっている。SK-8ってのは同じものかも?ESL57の水溶性ナイロン(CALATONとか類似のELVAMIDEとか)もいいんだが、10^10 Ω/□でESL57以外ではあんまり使っている人がいないみたい。寝起きが悪くなるからかもしれない。理論的には定電圧(constant voltage)ではなく定電荷(constant charge)の方が歪が少ないというESLとしては、水溶性ナイロンが王道だと思う。しかし、導電性が高くなるとともに寝起きが良くなって扱いやすくなるが、歪のもとになるのじゃないかな?ただ、フレームやステータの絶縁も高くないと、非力なバイアス電源では振動膜に電荷を与えられず、むしろどんどん逃げていく。Licron Crystalは導電性が「高い」とは言えなくてもそれなりに「低くない」。

この手の静電防止剤(帯電防止剤)の広告には表面抵抗率が明示されていなかったり、単に表面抵抗と書かれていたり、代理店によって数値が異なっていたりで、あまりあてにならない。塗り方にも依るのだろう。

ML製品に使われている3MのVHBアクリルフォーム構造用接合両面テープはスパー・リブとしての電気的特性(絶縁)は十分だったんだろうか?振動膜とステータの距離を正確に保ち、長い年月接着しているという目的に使用するのは少々疑問が残る。現在、高い信頼性を求められる飛行機や自動車の生産にどんどん使われているらしいので杞憂かも知れないが。スパー・リブには柔らかいVHBテープではなく、硬いPETとかPEとかPCで作った方が絶縁が良い。テフロンを使いたいところだが、デルリン同様接着性が悪い。。。

さらに、両面テープを過信せず、前後のステーターをポリカのボルト・ナットで固定してはどうか。前面にボルトの頭が見えて恰好悪いが。製品に多用されている両面テープは工場での生産性とコスト削減にはいいが、不器用なアマチュアには向かない。また、耐久性に議論が残る。

後ろが透けて見え、パンチングされた前面がするっとしているのがMartin Loganの美学だが、ここはひとつアマチュアの実験精神に免じてかっこ悪く変身してもらうことにしよう。

さらに、Martin Loganの美に反することが必要だ。両脇の低音域の後ろのステータには内側に菱形等のフィルムが貼られている。おそらくダンピングのためと思われる。これも後ろが透けて見える透明性を確保するために透明の膜でできており、おそらくは振動膜と同様の素材だ。しかし、デルリン(ポリアセタール)で出来た穴だらけのステータに膜を接着しても剥がれ易い。

そこで、後ろ側のステータの外側に、ESL57で好結果であった百均のポリエステル製の厚手のキルト芯を貼るのがよさそうである。

後ろに演奏者が透けて見えるようなスマートなCLSIIaに、前面にはボルト頭、後面には透けては見えなくなるようなダンピング材、と見た目がとても残念になりそうだが、以上を基に、眠気の合間に詳細な「CLSIIa魔改造計画」を立ててみることにしたい。ML製品の振動膜を透かして後ろが見えるデザインは秀逸で特徴的なのだが、本魔改造はそれを台無しにするだろう。いっそ、発音体ユニットにAcoustatのように布(Acoustatのはcloth socksとよばれている)をかぶせてイメージを変えてしまうのも面白い。









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